【感想】ガラスの仮面31巻 野生とは?新しい目標と揺れ動く速水の心
あらすじ
狼少女の本当の表情をつかむため、マヤはひとり山の中へ。そして大女優・円城寺まどかの初日の舞台のパーティーで、マヤは速水真澄から、「狼少女」とからかわれ、辱めを受ける…。
bookwalker作品紹介より
というお話です。作者は美内すずえさんです。
登場人物
北島マヤ:『忘れられた荒野』で狼少女ジェーンを演じる。今回久しぶりの露骨な逆境に立たされる。腕はいいが世渡りが下手な師匠ばかりに当たる。
桜小路優:『忘れられた荒野』でジェーンを人間に戻そうとする青年スチュワートを演じる。よく考えたら彼は過剰な演技の稽古をしていない。あくまで普通の人の範囲内にいる人。いい人なんだけど。
黒沼龍三:『忘れられた荒野』の演出家。腕はいいが世渡りが絶望的に下手。現在のチーム黒沼が逆境にいるのは根本的には黒沼が悪い。でもちょっと頭おかしいくらいの方がこの世界では上にいける。
感想
野生の狼を求めて!揺れ動く速水の心
はい!というわけで今回紹介するのは『ガラスの仮面』の31巻です!
なんも無い巻というわけではないんですけどね。いつものように前半部分だけだと結構おとなしい内容なのです。
上演の条件
大沢演劇事務所所属として『忘れられた荒野』を上演するためには実は社長からの条件がありまして、その条件というのが『アカデミー芸術祭の一般部門で参加が認められたら上演してもよい』というもの。
通常は1劇団1作品というのが通例のようで、『イサドラ!』推しの大沢演劇事務所としては忘れられた荒野を上演するのはほぼ不可能だろう。という事だそうです。
前巻の最後の方で黒沼が泥酔していたのはおそらくこの条件を突きつけられた事が原因。
それにしても世渡り根回しの下手なボス。マヤ達は何も悪い事をしていないのにどんどん状況が悪化していく。
上演する劇場も未定だったのですが新しい場所が決まりました。雨月会館という場所。
5年間に廃館された映画館らしいです。どう見ても天然のお化け屋敷。
全体的にボロボロで、上演するとか以前の問題でまず危ない。舞台も床板が割れているような部分がところどころにあり、椅子も壁もズタボロ。とてもお客を呼べるような場所ではない。
しかしまぁここで腐っても仕方ないので、とりあえず出来る範囲での修理と掃除をしよう!という事で作業に取り掛かるチーム黒沼。こんな場所で一体何が出来るというのでしょうか。
一方。
前巻の最後の方でチーム黒沼の、マヤの演技を見てその凄さを知った円城寺。マヤに負けじと猛練習です。
この円城寺の練習風景は2ページあるのですが、なかなかの躍動感と真面目にやってるのになぜかシュールな空気感があってちょっと面白いのでここだけでもぜひ読んでもらいたい。美内先生は結構この円城寺を気に入ってたんじゃないかなと思います。
シナリオ展開的にもどう考えても負けるしかないキャラなのに練習風景が描かれるの珍しい気がする。
そんな円城寺も一目置くチーム黒沼ですが、とりあえずボロボロの場所でなんとか練習を再開しました。
しかし、黒沼からマヤの演技にダメ出しが。
曰く『マヤの狼は都会の狼で野生の匂いがしない』との事。
ただでさえ狼少女という難しい役なのに、そこに『野生の匂いがしない』とか言われてもという感じです。
ここで言われた『野生の匂いがしない』は、今後マヤがジェーンを演じるうえで最重要なワードとなっていきます。果たしてどうやって都会の狼から野生の狼になるのでしょうか?
悩むマヤ。すると、そこに大沢事務所の社長ご一行with速水がやってきます。
大沢社長が言うには、もうこれ以上の稽古は必要無くなった。と。どうやら忘れられた荒野は芸術祭への一般参加部門での参加が認められなかったようです。
これにて黒沼は大沢演劇事務所をクビになり、いよいよ全てを失いました。
しかし。事務所をクビになったからといって黒沼は諦めません。この場所の所有者には許可は取ってあるから、どうなってもこのまま芝居は完成させるぜ。とやる気十分の黒沼。
そこに。
「芸術祭に参加出来なくても賞は競えますよ」
と告げる速水。
いきなりめちゃくちゃベラベラ喋りだしました。
当然こうなる展開を予想していたんでしょうが、急にギチギチにセリフが出てくるし初めて聞くような言葉もそこそこ出てくるのでパっと見ても全然意味がわかりません。
要約すると
1 アカデミー芸術祭の期間中に上演された芝居の中から芸術祭のそれとは別に全日本演劇協会からの賞がある
2 全日本演劇協会から出される協会賞の中でも『最優秀演技賞』は最高の名誉
3 その協会賞は『芸術祭の期間中に上演された芝居の中から選ばれるが必ずしも芸術祭に参加している必要はない』
という事のようです。
つまり。今芸術祭への参加が出来ないという事になった忘れられた荒野も、芸術祭の芸術大賞ではなく全日本演劇協会の協会賞であれば狙える可能性がある。という事です。
ここで。マヤが紅天女の候補になるための条件を思い出してみましょう。
『今から2年以内に芸術大賞かもしくは全日本演劇協会の最優秀演劇賞を受賞した場合』
とあります。これまでは芸術大賞を取るために努力してきたわけですが、ここで突然もう1方の選択肢が生きてきた。
なるほど!!2個道を用意したのはここに至る伏線だったのか!!
という気持ちいい場所のような気もしますが、この賞自体がそもそも我々に馴染みがないのと、実際のところたぶんこれを取れないと思って読んでいる読者はほとんどいないと思うのでいまいちピンとこないです。
ここから逆算して展開を作ってきたのかなとは思うんですけどね。そんなにカタルシスは無い。
とにかく。
マヤ達の道が首の皮一枚ギリギリつながった。という事は間違いないようで。それを聞いて円城寺もマヤを煽ったりしてみます。
黒沼の自信に変わりがないのなら、速水達を舞台に招待してほしい。そのかわりにイサドラの初日の舞台に主役の2人を招待しますよ!
と煽ってくる速水。
『でもわたし達がこの劇場に招待されても座れる椅子がなさそうね!』
などと高笑いする円城寺。
しかし。
この選択が円城寺にとって最大の間違いであった事。速水真澄という男が世渡り根回し策略という点においては天才であった事を、後に思い知る事になるのです。
この段階ですでに速水の壮大なプロジェクトが始まっているわけですが、そんな事は知らないマヤは劇場を去ろうとする速水にこんな一言を。
紫織さんの分と2枚チケット送りますから…!
躊躇なく地雷を踏みぬくマヤ。速水可哀想。
野生の狼
的確に地雷を踏みぬかれ内心穏やかでない速水は、劇場を去った後の会食の場でマヤ達の劇場の悪口を言われマジ切れ。
嫌な事を言ってきたのはマヤだし、実際お見合いを受けているのも事実ですから、ここでこんな白目でブチ切れ感を出しても逆ギレ以外の何物でもないんですが、とにかくこのままではたまったストレスのやり場がない。
俺の最推しのマヤとその仲間をバカにするとかマジで許せん!!
と思ったのかどうかはわかりませんが、この次のページでなんと。
ボロボロであった雨月会館になぜか突然業者の工事が入り、あと3日ほどで新館同様になる。という事を知らされます。
そして3日後。
実際にあのボロボロだった雨月会館は新しく綺麗になりました。
どうして、誰がこんな事を?
綺麗になった劇場をウロウロしていると、舞台の上になにやら置いてありました。
紫のバラ……!!
いや速水マジで凄いわ。よくやってると思うわ。
紫のバラのひとへの感謝を胸に、ここから絶対頑張ってやるぞと決意を新たにするのでした。
そんな、紫のバラのひとに対する感謝の気持ちとこれまでの思い出をカセットテープに吹き込んでそれを聖に渡すマヤ。
それを聞いた速水。なんとまぁ複雑な関係よ。
『このまま正体を明かさずにいるのはあまりにも残酷なのでは?』
と聖に言われますが、俺はマヤの母親を死なせた男だぞとそれを拒否する速水。
『本当は怖いのでは?』
と切り返す聖。なかなか言いよる。
それを認める速水。
今まで人を愛した事などなかった。愛し方、愛され方など教わって生きてこなかった。仕事ではやり手と恐れられてきた俺が、あんな少女相手にどうにも出来ずにとまどっている。あの子の口から拒絶の言葉が出るのが怖い。
11歳も年下の少女なのに……。このザマだ……。
と、自身の心の弱い部分を聖に打ち明けます。
このナイーブな部分を見る感じだと、もしかすると速水は女性経験というものが無いのかもしれません。もうちょっと遊んでるのかなと思ったけどそうでもないのかな。愛の無い何かはあったのかな。その辺の事情は作中ではたぶん語られる事はないと思いますが。
そして、マヤが全日本演劇協会の賞を取るのは大変なのでは?そもそも注目もされてないし……。という聖の問に対して。
どうやらなにか秘策がある様子。果たしてどうなるのでしょうか。
一方のマヤは。
あれから『野生の狼』とは?という壁にずっと悩み続ける日々。何度も何度も黒沼からダメ出しを受けますがどうしていいのかわからない。
この辺が月影先生の時と違って、黒沼はあくまで演出家なので『それは違う』という事はわかっても『じゃあどうすればいいのか』という役者目線でのアドバイスは出来ないのが難しいところ。
まともなアドバイスも無くただひたすら違う違うと言われ続けてもそりゃ心折れるわ。
そんな悩めるマヤに接触してくる謎の老人がいました。
妙に親しく話かけてくるのこの謎の老人。現役時代の月影千草を、紅天女を知るこの老人こそが、速水の義父なのです。
『紅天女を教えてください!』
と老人に懇願するマヤ。現代なら、それほどの舞台なら何かしらの映像作品とかあったかもしれませんけど、この時代だと情報を手に入れるのも一苦労です。
そんなマヤに、紅天女を演じる月影千草がどういう感じであったかを説明する老人。
紅天女を演じる月影千草は、人間の気配が無かった。梅の木、梅の精そのものだった……。
と語ります。彼もまた、演者とは違った角度で紅天女に魅せられた1人なのです。
それから
ここまでで31巻の半分くらいです。
ここからは、野生の狼を掴むために電車に乗ってどこまでも遠く旅に出るマヤ。
電車を2回乗り継ぎ辿り着いた山奥で、なんと山籠もりを開始します。
野生の狼を体得するために体を張るマヤ。受け継がれていく狂人の意思。
そこで偶然知り合ったおじさんにも『マヤの狼からは野生の匂いがしない。表情が違う』と言われてしまいます。
それを聞いてより一層腹をくくるマヤ。
山を進み、転げ落ち、木の実を食べ湧き水を飲み……。彼女はどこへ向かっているのでしょうか。
『野生』を体得するために体を張る。果たして野生は手に入るのでしょうか?
そして、ついに迎えたイサドラ!の初日。ついに速水の秘策が始まります。
マヤや月影先生、亜弓、黒沼とはまた違った意味での天才である速水。彼が考えた作戦とは?
32巻へ続く
画像:「ガラスの仮面」コミックス31巻より引用
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません