【感想】ガラスの仮面28巻 急接近する速水とマヤ。少年時代とプラネタリウムと月影先生の失踪
あらすじ
大舞台で大成功をおさめながらも、亜弓は女優としてマヤとの本質の差を知り愕然とする。「紅天女」へ向かって新しい階段を上り始めるふたり。芸術大賞を目指すためにマヤが選んだ次の芝居は?あらたな挑戦がはじまる。
bookwalker作品紹介より
というお話です。作者は美内すずえさんです。
登場人物
北島マヤ:『ふたりの王女』の舞台を終え、次なる舞台は何をするかを悩んだり。この巻の前半部分で速水との仲が進展する。
姫川亜弓:『ふたりの王女』の舞台を終え、さっそくのマヤの自覚なき天才ムーブに劣等感を刺激される。世間的な評価としてはふたりの王女は亜弓の勝ちっぽい。でもまぁそもそもそこに勝ち負けを持ち込むのが無粋。
速水真澄:現在義父からお見合い話を持ち掛けられているがマヤとも接近中。2人の仲の行方やいかに。
感想
急速に近づいていくマヤと速水!そして芝居は次の舞台へ!
はい!というわけで今回紹介するのは『ガラスの仮面』の28巻です!
最近もう本当にガラスの仮面の記事ばっかりを書いているのでガラスの仮面ブログ。あと21冊もある。面白いのでいいんですけどね。
舞台が終わって
『ふたりの王女』の千秋楽も終わり、いよいよもうアルディスを演じる事もありません。
打ち上げを抜け出し全て終わった舞台の上で1人佇むマヤ。
評判的には亜弓の勝ちという風潮ではあるっぽいですが、そんな事は些細な事です。マヤも亜弓も舞台の上でその役を生きた。それが何より大事です。
今回の舞台でマヤの実力も認められ、色々新規の仕事の予定が舞い込んできたようです。スキャンダル絡みで1度華やかな業界から突き落とされていますので、もうあんまり派手に活動してほしくないファン心理。
最後に、舞台の上で1人セリフを言い始めるマヤ。するとそこに亜弓がやってきました。
マヤのセリフの後に亜弓が続きます。
短いセリフのやりとりがあった後、頑張ったお互いをねぎらいます。
ちょっと前までこの舞台の上であれだけ複雑な世界を生きたのに、それがもう無くなってしまうなんて信じられない。と。
上演期間中は。一応は紅天女の座を巡って争うライバルですからそんなに慣れ合う事も難しかったでしょうが、今はもう終わったのです。他愛のない世間話などします。
マヤにたくさん仕事が舞い込んできた事。お互いの生活交換についてのお礼。
いよいよ月影先生が決めた紅天女の条件の期限まで残り1年。芸術大賞を取るためにぜひ頑張ってね。とマヤを激励する亜弓。
この辺までは勝者の風格でした。この辺までは。
ステージの天井を見ながら、やや気持ちいい顔で舞台の感想を語る亜弓。
『わたしは姫川亜弓としてではなくオリゲルドとして舞台の上で生きていた。こんなにも身も心も別の人格になりきったのは初めての経験だ』と熱弁する亜弓でしたが、これを聞いて驚くマヤ。
あたしはいつも舞台の上ではそうだから、亜弓さんがなぜそんなことをいうのかわからない
この発言にショックを受ける亜弓。
さらに。
無自覚系天才ムーブ。昭和のなろう系
1984年に出版された単行本ですから、なろう系などという言葉が世間にあろうはずもありませんが、とにかくこの無自覚天才主人公ムーブ。
あの…他の人はちがうのかしら…?
この天然風煽りにはさすがの亜弓さんもブチ切れです。
先ほどまで、自身の人生での非常に貴重な初体験の思い出をいい顔で語っていた気持ちはどこへやら。
あなたを待っているわマヤ…!あなたはきっとわたしと紅天女を競うのよ…!
と、闘争心をむき出しにする亜弓。亜弓の素晴らしいところは、自分自身の名誉を思うならマヤなんかいない方がいいのはずなのに、それでよしとはしないプライドの高さ。
最高のライバルに、最高の舞台で勝ち、自分の最高を証明してみせる。その向上心は素晴らしい。
マヤが演技の天才だとすれば、亜弓は努力の天才であると思います。この高潔な精神は尊敬出来る。
とにかく。これにて長く続いたふたりの王女は終わりです。これからまた新しい展開へと向かっていきます。
プラネタリウム
さて。ここまでこのブログではガラスの仮面の感想を27巻分書いてきたわけですが、その感想の中であえて恋愛に関わる部分はあまり書かないようにしてきました。
それには理由がありまして、俺にとってこの作品はあくまで演技に狂っていく人々の話が軸であり恋愛はそのオマケである。という気持ちがあったからです。
しかし。
この巻あたりからは物語の中に恋愛が軸として存在するようになってきます。そもそも、紅天女という物語の内容、さらに月影先生と紅天女との関係性。まだこの段階ではよくわからない事ではあるのですが、どうしても物語の根底には恋愛というか男女の愛が深く関わってきますので、必要な部分ではあるんですけどね。
『ただお芝居が出来ればそれで人生最高に幸せ』だったマヤが、段々と誰かを想うようになってくる。少女から女性へと変化していく。
そして、クールで大人ぶっていた男が自身に芽生えた感情に振り回されていく。そういう人生模様が描かれはじめていくのです。
というわけで。
義父にお見合い話を持ち掛けられるもそれを保留にしている速水。マヤのアパートの前で、アパートの中で盛り上がるマヤを外で見ながら立ち尽くします。
やってる事はストーカー半歩手前ですが、どれほど金と権力を持っていても気になる少女1人も手に入れる事が出来ないというその悩みに関しては同じ男として気持ちはわからないでもないです。
マヤに対するどうしようもない気持ちを抱えているが『速水真澄』としては嫌われ、しかし『紫のバラのひと』としては感謝され舞台成功のお礼の品までもらう。この危うい二面性の生活に悩む速水。
速水でなくともこれはメンタル不安定になる感じですよね。
実際にマヤが速水をどう思っているのかはともかく、速水からすれば『自分はマヤの母親の仇のようなもの』という自覚もあるでしょうから、なかなか大胆にはいけないところ。
確かにその部分に関しては絶対に許されないクズでしたが、北島マヤという少女の人生を支え続けてきたという点では抜群の活躍もしているわけで。
真冬の小屋に閉じ込めたり冷凍庫に押し込んだりするどこぞの先生とは大違いなわけですよ。何度でも言うが北島親子の不幸の連鎖の最初のキッカケは月影先生だからな。
まぁそういう過去の話はともかく。
心にモヤモヤした気持ちを抱え、そろそろそれが限界を迎えつつある速水はマヤを劇に招待します。
差出人不明の舞台のチケットをマヤに送り、そこにマヤがやってきたら隣の席に座る速水。
当然マヤは反発して帰ろうとしますが、その手を掴んで離さない速水。
「きみがきょうこのあとおれにつきあってくれると約束するならこの手を放そう」
その真剣な表情から何かを感じ取るマヤ。
果たして速水は何を思うのか?
その後、舞台を見終わった2人はケーキ屋さんでケーキを一緒に食べ、さらに速水の誘いで区立の文化会館で開催されているプラネタリウムを見る事に。
「子供の頃ここへよく来たんだ」
と自分の思い出を少し語る速水。
どんなときでもここへくれば心が大きく軽くなった
と速水。なるほど。嫌な事があると宇宙の動画を見て逃避する俺と感覚的には似たような感じでしょうかね。わかる。わかるよ速水くん。
まるで少年のような目で夢中になってプラネタリウムを見る速水の事が気になるマヤ。
こういう、大人ぶった男が時々見せる少年のような部分とかいうギャップが刺さるわけですね。母性直撃ですわ。
さらに、上映が終わった後に受付のおじさんから速水が少年時代によくここへ来ていたという話を聞かされるマヤ。
子供の頃から何度も何度もここへ来て、時には隅で泣きながら見ていた事もあるという話を聞きます。速水の子供時代を思うマヤ。
その後2人は縁日に。
そこで速水の子供時代はどんな子だったのか?とマヤがたずねます。その問いに、ガキ大将ではあったけどすなおでまじめな子だったと答える速水。
しかし途中で変わってしまったと。
速水家の養子となってからの生活がどれだけ厳しいものであったか。という話ですかね。荒んだ子供時代。
縁日を周る途中で2人は迷子の子供を発見しました。これを肩車して一緒に親を探してあげる速水。
泣いてる様子をあやすわけでもなく、むしろもっとしっかりママの名前を呼べと。
今から40年前の描写ですからこれも許されますが、現代の世において同じ事をすると逆にこちらが通報されかねない状況。世知辛い世の中になったもんですよ。
速水の肩車のおかげでなんとか親子は再会できまして、意外と優しいところもあるんだな気付くマヤ。
マヤが世界で一番優しい素敵な人と思っている人物と同一人物ですからね。普段の冷徹な部分とのギャップに今回グラグラしっぱなしです。
なんだこのページ
ピューっと吹く速水さんです。ちなみに、このピューっとする笛は最初はマヤが吹いていたので間接キッスです。これが美内先生的ロマンス描写なんだろうか。40年前の文化わからん。
先生が脱走
縁日に行ったあとは夜のレストランで2人お食事。
これがもうちょっと大人の世界なら、この後ホテルの部屋のキーが登場して『子供じゃないんだしわかってるだろう?』という展開になるかもしれませんがガラスの仮面はそういう世界ではない。
『仕事ではやり手であると言われている俺がこんな少女の拒絶が怖くて何も出来ないでいる』
という事で悩み苦しむ速水。ただ一言、自分の中の真実を口にすればそれで済む事なのに。
一方マヤは。
『ときおりその目に宿る優しさはなんですか?あたしを見る目に寂しさがあるのはなぜですか?』
あなたの心を教えてください…!!
お互いの、言葉にならない心の声が交錯する。
いよいよ今日マヤを誘い出した事の真意を告げようと決意する速水であったが、そこに1本の電話が入ります。
もう台無し。全部台無し。月影千草のせいで全部台無し。
速水のスタジオで療養生活を続けていた月影先生はそのスタジオから失踪。
そのニート的な生活に申し訳なくなりどこかへ逃亡となりました。何度おとなしくしろと言えばわかるのかこの先生は。
速水の財力があれば月影先生1人を残りの人生養うくらい楽勝だろうに、それに遠慮してさらに厄介な事件を起こす月影先生。
演技で他人の人格を憑依させる事は出来てもリアルに生きる他人の気持ちはまったく理解できない狂人。
一応は置手紙を残して失踪しましたが、そこには『迷惑かけてごめんね』という言葉と共に『あえて行先は知らせませんが心配しないでください』とかいうふざけた言葉が。
完全に月影先生の独断専行によってパニックになるマヤ達でしたが、どれだけ困惑してもそもそも本人がいないのでどうしようもない。
この行き場の無い感情は速水に向かいます。
『先生の事は責任もってみるって前に約束したじゃない!うそつき!!』
と速水をなじるマヤ。
いやまさかそんな何回も死にかけては脱走を繰り返してきた人が、半年の療養を宣言されてまた脱走するなんて思わないじゃない。人の目もたくさんありそうな場所なのにそこから完璧に脱走するとかあの人本当は元気なんじゃない?源造が忍者かなにかなのか?
あの人を封じようと思ったらハンニバル・レクターばりの拘束が必要なのではないだろうか。
とにかく。
どこまでいっても自己中な月影先生のおかげで2人のデートの空気は台無しです。
さらに。
はい終わった。地雷踏んだ。終わり終わり。もう終了。完全に終わった。
きっと先生は探し出してやる。そう約束する速水に火の玉ストレートをぶん投げるマヤ。
もし先生があたしのお母さんみたいなことになったらあたし一生あなたを許さないから!!!
これまでの病院代や住む場所。仕事に生活費。たぶん月影先生が速水に世話になったお金の金額はかなりの額になると思うのですが、それに感謝するどころか何度でもその恩を仇で返し続けてきた月影先生。
なのに、月影先生が責められるどころか扶養していた速水が責められる始末。
確かに、過去速水は許されない過ちを犯しました。しかし、マヤが大切に想う月影先生も『あたしのお母さん』から届いた手紙や荷物をマヤに無断で焼き捨てていたんですよ?それが無かったらマヤの母はマヤの居場所を知っていたはずなんですよ?
こんな事言われてまさかその前の雰囲気に戻れるはずもなく。絶句して今日の感想を少しだけ喋って去る速水。
速水がいなくなった後、星空を見上げながら
『(レストランで)なにを言おうとしたのですか?真実が見えない……』
と想うマヤ。
いやいやいやいや。そこそこエグイ事言って今追い返しただろうよ。流石に速水可哀想。
一方その頃の月影先生は。
前途ある若者のデートをぶち壊しといて自分は過去の男との思い出に浸る
お前ホンマええ加減にせぇよ!!!と言いたくなりますね。
あそこにいけばあなたにあえるような気がする…。一漣…。
じゃねぇよ!!!反省しろマジで!!!!!!
大都芸能の若社長の手を止めるというのがどれほどの経済的損失を生むのかわかってるんだろうかこの人は。速水の仕事のタスクの中に『月影千草を探す』がそこそこの優先順位で存在するかと思うと同情するわ。
とにかく。
それぞれの思惑を持って運命の歯車が回り始めるのでした。だいたい全部月影先生が悪い。
それから
ここまでで28巻の半分くらいです。
ここからは、マヤとギクシャクしてしまった事にショックを受け、見合いの日取りを決めようとする速水
『遠くからあなたを見ていますよ』という月影先生の手紙にあった言葉を励みに頑張る決意をするマヤ。
という感じ。
さらに、時間的にも次の芝居が勝負と気合を入れているマヤの元に次の芝居の依頼がやってきます。
黒沼という、超絶厳しいがその腕は確かという感じの演出家の目に止まり『忘れられた荒野』という劇に出演する事になります。
マヤの役は『狼少女ジェーン』です。
野生の狼に育てられた少女の役。またとんでもない役をやる事になったわけですが、今回は自薦。自分から志願して依頼を受けました。
この思いこみの激しさはやや危うい精神性であるなという気もしますが、そんなもん今さらですね。昔からこの子はそういう子だよ。
黒沼の元へと依頼を承諾する話をしに行ったあと、まずは雑巾を生肉だと思って反応を見るテストで顔面に思いっきりビンタを食らって壁に吹っ飛ばされるなど、なかなかにバイオレンスな現場。
その仕打ちに対して腹から声を出してのありがとうございました。
令和の世なら黒沼の演出家人生はもう終わったわけですが、どうやらそうはなりません。おおらかな時代。
大炎上するどころか『手加減しなくて悪かったな。君も本気で向かってきたからな。本気でむかえたまでだ』などと言う始末。『今日の事は不可抗力だから。誘ってきた君が悪いんだからな』と事後に言い出しかねない発想。
いきなりビックリしただろう?とマヤを心配する他の共演者に対しては『月影先生のとこではこれくらい当たり前でしたから』と満面の笑みで返します。なるほどこれがDVから抜け出せない人の思考か。
その後は、マヤが狼少女の気持ちを知るために四つ足で歩きながら生活し始めたりします。
さらに。
ややこしい現場になりそう。
29巻へ続く
画像:「ガラスの仮面」コミックス28巻より引用
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