【感想】ガラスの仮面34巻 語られる速水家の過去と粘着系厄介オタクの自分語り
あらすじ
速水真澄と「紅天女」との出会い。それは真澄の決して幸せとは言えない少年時代にあった。そこから北島マヤと出会う運命の秘密が…。いよいよ「紅天女」が動き出す。
bookwalker作品紹介より
というお話です。作者は美内すずえさんです。
登場人物
速水真澄:この34巻において実質の主役。この巻においてかなり具体的な過去が明らかになる。
速水英介:速水真澄の義父。物凄くザックリ説明すると重度の紅天女オタク。いわゆる『厄介(迷惑なファン)』にあたる。厄介が金も権力も持ってしまうとどうなるか?という見本。
藤村文(あや):速水英介の妻であり真澄の母。夫は建築会社の現場主任であったが事故で亡くなっている。さすがにこれは陰謀ではないと思いたい。英介との間に愛があったのかはわからないが、真澄を養子にしたいがための結婚であっただろうとは推測される。
北島マヤ:真澄の計画により直接的では無いにしろ母を奪われた犠牲者。真澄の犯したその罪は決して償えるものではないが、それはともかく速水一族に世話になる事も多い。真澄=紫のバラのひとに気付きそう。
感想
速水家の過去感想回。ついに真澄の過去が明らかになる!
はい!というわけで今回紹介するのは『ガラスの仮面』の34巻です!
いよいよ40巻が近づいてきまして、物語も核心に迫ってきました。感想を書こうとして読み始めてそのままずっと読み進んでしまう事もあるので困る。
語られる速水家の過去
この34巻では速水家の過去の話が中心となります。今までこのブログでは『速水真澄=速水』と書いてきましたが、義父も今回はたくさん登場しますので『速水真澄=真澄』『速水英介=英介』と書いていこうと思います。
急に俺と真澄との距離が縮まったとか、そういう事ではありません。
マヤが紅天女の候補の選ばれた事で、世間の話題は紅天女一色に(たぶん)。
そしてさらっと紅天女の聖地は奈良県にあるらしいという事も明かされました。まぁ聖地とは言っても架空の……。と思ったのですが、どうやらモデルとなった場所はあるのではないか?と複数の候補地があるようで、もし興味があれば検索してみてください。とても綺麗な梅の写真がたくさん見られます。
さて。
そんな紅天女を巡る世間の反応から場面は一転。速水家での真澄と英介との会話になります。
『月影千草が世間から姿を消して27年。ついにここまできたか』
と感動に打ち震える男。彼の名は速水英介。速水真澄の義父であり真澄の母である藤村文の夫。大都芸能の創始者でもあります。
紅天女を大都芸能で上演する事がわしの長年の夢だった。と語る英介。紅天女によって狂わされてしまった運命のレールとは。
このガラスの仮面という物語の根底にある紅天女という伝説の舞台。その詳細が語られる事はここまでほとんどありませんでしたが、ついにその一部、というかそれを巡る人物達の過去が語られようとしています。
今後も徐々に明らかになっていく部分もありますが、今回はそれにまつわる真澄目線中心の過去物語。
速水英介という粘着質の厄介オタクが生み出した悲劇の数々が語られていく事となるのです。
まず最初の舞台は真澄が6歳の頃にさかのぼります。
英介の家に住み込みの家政婦としてやってきた藤村文と真澄の両名。真澄の父はこれより4年前に建設現場での事故により命を落としています。
『施工中のビルの上層部から足を踏み外しての転落死』という事ですが、現代社会から考えるとかなり危ない作業ですね。足を踏み外せば死ぬ現場でなんの装備も無しとかちょっと考えられない価値観です。
正直のところ、これまでの速水家のやり方を見ていればこの事故ですら陰謀なのではないかという気持ちが消えませんが、とにかく。
ここで、母や運転手から『速水英介とはどういう人物か』を教えられる真澄。
14歳の時に岡山から東京へ家出してきて、様々な事業を行い成功。株で大儲けの経験もあり、元々は運送会社からのスタートであったが大都芸能も立ち上げる。などなど。
母はともかく運転手がこんなに自分の雇用主の事をベラベラ喋るのはいかがなものか。コンプラ意識の欠片もありませんが、たぶんこれくらいの知識は一般常識なのでしょう。大物っぽいし。
まぁ、相手がどんな人物であれ、幼い真澄からすれば母が住み込みで働く家の主人というだけです。そんな難しい事がわかるような年齢でもありません。
ある日。速水邸で無邪気にオモチャのミニカーを走らせて遊んでいた真澄が、事前に『この部屋には入るな』と言われていた部屋の扉が開いているのを発見します。
なんとなく興味本位でその部屋に入った真澄が見たものとは。
ド正面にクソデカ紅天女の肖像画が飾ってあり、その他にもあらゆる紅天女のグッズが置かれた部屋。
痛部屋です。紅天女のガチオタです。
1987年に発売されたこの単行本に、その37年後にもまだ通用するような怪しい価値観が描かれているとは思いませんでした。オタクというのは何年たっても同じなのですね。
もし英介が現代に生きて『Vtuber 紅てんにょ』が誕生していたら、狂ったようにスパチャを投げまくったであろう事は間違いありません。
そのあまりの部屋に茫然とする真澄少年でしたが、その部屋に飾ってあった綺麗な着物に惹かれます。
思わずそれに手を触れてしまう真澄。そして、そこを英介に目撃されてしまいます。
愛しの天女たんの衣装に素手で触れられた英介は一瞬で激怒。真澄少年の頬を全力でビンタし吹っ飛んだ真澄は壁に激突。キレるオタク。
『どうしてはいった!!』と真澄を怒鳴る英介。
『扉が開いていたからつい。中に入ったら綺麗な女の人の絵がみえたからそれで……』と答える真澄。
先程まで激怒して少年への暴力も辞さない姿勢の英介でしたが、推しの紅天女が『綺麗な女の人の絵』と褒められた事で怪しいスイッチが入ってしまいます。
興奮した表情で特に聞かれてもいない事までベラベラと早口で語り始める英介。
一応言っておきますが、俺もオタクサイドの人間なので英介の心情は非常によく理解出来ます。しかし金も権力も持った高齢のオッサンが推しに狂っている様子というのはなかなかに面白い。これ絶対SNSやらしたらダメなタイプですよね。生まれた時代がそこでよかったな。
『紅天女』というキャラがいて、その中の人が『月影千草』という人物であり、英介はその外も中も愛せるという訓練されたタイプのオタクですので、本当に現代との親和性が高すぎる。
例えばの話ですが『失われた伝説のVtuber紅てんにょを復活させるためにわしはC〇VER(ホ〇ライブ)という会社を立ち上げたのだ……』って言ってるのとほぼ同じですからねこれ。
今もしこの作品が現代で注目をガッツリ浴びたら英介の人気が爆発しそうではある。もしくは同族嫌悪で叩かれるか。
さて。そんな話はともかく。本筋に戻りましょう。
この後も、集めた小道具についての思い出を熱く語って満足したのか、唐突に『出ていけ!もう2度と入るんじゃない!!!!』と激怒し真澄少年を突き飛ばして部屋から追い出します。
その生き様はまさに現代の問題児ではありますが、英介の場合はちゃんと自立しており過剰なほどに収入もありますので誰に何を言われる筋合いもありません。その有り余る財力でグッズを収集すればいいと思います。
これが真澄少年と紅天女との初めての出会いだった。
最悪の出会いですよね。
感覚的には親戚の家に遊びに行ってそこに住んでたオジサンの部屋に入ったら痛部屋で、物を触ったら殴られて熱く推しを語り始めたと思ったらまたいきなり突き飛ばされて追い出されたわけですから、トラウマになってもおかしくありません。
英介とその縁者
英介は、最初に説明にあったように岡山から家出をして東京にやってきて一代で特大ホームランを打って成り上がった人物です。
その英介には兄弟がいました。
しかし。その関係は決してよいものではありませんでした。
英介には腹違いの兄弟がおり、そもそも彼が家出したのは自身が妾の子であり義理の家族との喧嘩が絶えなかった事がその原因の一部であるようなのです。
妾がいるくらいなので、速水家というのはそもそも結構な家柄であったようです。しかしそれもすっかり没落してしまったようです。
そして、このアホの親戚どもはその英介の財産を目当てに自分達の子供をぜひ英介の養子にしてくれと催促しているようです。
おそらくですが、昔は自分をイジメていたであろうその義理の家族達が、今や英介をやれ一族の誉れだのなんだのと持ち上げ、その口で『昔はちょっと面倒みてやったのに見返りが少ないのでは?(要約)』などと言い出すのです。
なるほどなるほど。これは英介が紅天女という創作の人物に心酔するのも理解出来る気がします。とにかく現実がカス過ぎる。
単身で成功をおさめ財を成したその結果、寄ってきたのはしょうもない身内。ともなれば怒鳴って追い返さないだけ英介はまだ優しいと言えるでしょう。
この腹違いの兄弟達が『ぜひ我が子を養子に!』とうるさいので、英介は1つ子供達を試す事にしました。
速水邸にある広大な池の泥さらいをやってくれ。と。
中には鯉もおり、それを傷つけたら承知しないぞ。と念を押す英介。しかし相手は子供です。鯉を傷つけるとかどうとかいう以前の問題でまず無理です。
でも子供達も親に命令されていますから、とりあえずは挑戦します。そこから1時間20分後。子供達はリタイヤしますが、1時間20分て結構頑張った方じゃないでしょうか。
まぁどっちにしても期待もしていませんから、まぁ続いた方だなと評価はするもののそこまで。とてもではないが後継者どころではないな。とバッサリ切り捨てます。
そして。
丁度その近くにいた真澄にも同じ課題を言ってみます。この池を泥さらいしてくれんか?と。
すると。少し考えたあとに『ここが綺麗になればいいんですよね?今日中に出来るかなぁ?』と言ってどこかへ行った真澄。
しばらく後にそこにいた大人達が見た光景とは。
とんでもない光景でした。
なるほど速水の財力で……。と思うのは少し早い。
この作業を行っているのは速水家に出入りしている植木職人なのですが、彼らは日頃から『池の泥がいい堆肥になる』と言っていたそうなのです。
つまり。
真澄はこの池の泥をさらいたい。植木職人はこの池の泥が欲しい。両者の利益が見事に一致したわけです。という事は、作中では描写されませんがこの作業は無料、もしくは速水家がいくらかお金をもらった可能性すらあります。
これは素晴らしい解決策ですね。これには英介も大満足。
個人的には、ここで真澄の『自分では絶対に無理だと思ったから』とした判断を評価したいです。自分では出来ない。そう思ったから他人を頼ったのです。ここが素晴らしい。
人の上に立つというのはなんでも出来るスーパーマンではなく、いかに人を上手く使うかであると思っているので、真澄少年の判断は素晴らしいです。
そして。
実は真澄がまだ住み込みとして速水家に来る前の段階からすでに事前調査はされていたという事実も発覚します。これを見ると、本当に『もしかして……』という気持ちが湧いてきますが真相は不明。
それ以外にも、実は英介は戦争の時に行った時にかかった熱病によって子供が出来ない体になっていたようです。そのため、これまで結婚もせずに生きてきたと。
これに関しては気の毒にと思います。もし英介にも実の子を作る事が出来たなら、また少し違った未来もあったのかもしれません。
それから舞台は一旦現代に戻り。
速水家に遊びに来ていた紫織が速水のアルバムを見るシーンに。なんかこの人よくアルバムを見る役割をやらされてる気がする。
見たアルバムには真澄の子供の頃の写真がありました。が、そのどれもが笑っていませんでした。
なぜ……?
ここまでの話の中では、父を失い母と2人でちょっと厄介なおじさんの家に住み込む事になった。というだけで、笑顔の一切無い子供になってしまうほどのエピソードはありませんでした。
ではなぜ。なぜ真澄は笑顔を失ってしまったのでしょうか?
会社で下働きなど
また場面は過去に戻ります。
英介と真澄の母である文が結婚。これにより真澄は正式に速水家の養子になる事になりました。というか『速水家の養子』という言い方は正しくないのかもしれません。英介の息子になったのです。
それにともない真澄に対する後継者としての教育もスタート。それまでに通っていた学校から名門の学園に転校する事になり、また好きであった野球も辞める事になりました。
父を失い、母の手1つで住み込みの家で暮らし、本人の希望とは別に周りの大人に人生を振り回されていく。
そういう意味ではマヤと真澄は非常によく似た環境であったと言えます。ただ違ったのは、住み込んだ場所が街の中華料理屋かお金持ちの家か。それだけです。
学校が終わると真澄は英介の会社で掃除の仕事をさせられました。今なら児童虐待待ったなしの扱いですが、従業員ではなく家族の手伝いなのでどうですかね。黒に近いグレーでしょうか。
それ以外にも、基本的には英介は真澄に対して父親らしい事というのはほとんどしませんでした。
運動会などの行事で他の家族が父親と楽しく会話しているのを寂し気に見る真澄。家の庭で1人木に向かってキャッチボールをする真澄。それを近くにいながら無視し続ける英介。
歪んだ親子の形が描かれていきます。
しかし、共働きが当たり前となった現代において『父親と遊んでもらえない子供』というのはおそらくこの当時に比べるとそれほど特別な存在ではないのかもしれません。悲しい事ですが。
そして、事件が起きます。
親戚が速水家に遊びに来ていたある日。
英介の義兄弟達は使用人から妻になった真澄の母に対して辛くあたります。まだその存在を認めていない。そしてそんな大人を見て、当然子供達も真似をします。『使用人の子のくせに生意気だ』と真澄をイジメます。
そして、その日初めて真澄にプレゼントを買ってきた英介。プレゼントは鉄道の模型のセットでした。
初めて義父からもらったプレゼント。それを喜びさっそく部屋で組み立て遊びます。
そこにやってきたのが親戚の子供一同。『使用人の子供のくせに生意気だ』と鉄道のセットを破壊します。
これに怒り、喧嘩をする真澄。当然ですね。
しかし。この喧嘩に割って入った母は相手の子供に対して謝罪。
せっかく初めて義父からもらったのに。それをあのアホどもが壊した。なのに、なぜか母はあいつらに謝った。
どうして……。
可哀想ですね。本当に可哀想です。せっかくもらったのに。何度も繰り返すその言葉に無念が溢れています。
しかし。世の中は想像以上に残酷でした。
実は、わざわざ親戚がいる日に派手に鉄道のセットを渡したのは英介の計画でした。
他人にねたまれるという事がどういう事か。それを教えるために、わざと英介は親戚の目の前で真澄にプレゼントを渡したのです。
曰く、幸運を手に入れても見せびらかすな。隠していろ。それが見えない敵を作らない一番の方法だ。という事だそうで。
いや……。まぁ、言いたい事はわかるけど、あんまりじゃないですかねぇ?こんな幼い子供相手に……。
経営学というか人生哲学版月影先生だと思えばこの体当たり実践も……。いや。無しだな。
しかし。真澄少年はここから腐る事なく成長をしていきます。学校帰りに義父の会社で掃除を続けて1年ほどたった頃。
段々と周囲の大人の世界を見る余裕が生まれてきました。
部長にはへこへこするが真澄少年には辛くあたる大人。仕事をサボって陰口を吐く大人。外から出入りしてくる様々な業者達の流れ……。などなど。
『ああこれが会社ってものか……』
とは真澄少年の感想ですが、そこにどれほどの意味があるのか。果たして、自分は真澄少年のお目にかなう程の人物でしょうか?考えてしまいますね。
そして。ついに英介の会社の人達に紹介される日がやってきました。
それまでは真澄の事を『掃除の子供』としてしか認識していなかった社員一同でしたが、それが英介の子供とわかった途端に態度が一変。
1年の下積みも、この温度差を真澄に見せるための英介の計画でした。こんなん人間不信になるわ。
しかし、それなりに素晴らしい事も言ってまして、最初から英介の息子として会社に入っていたら真澄は頂上からの景色しか見られなかっただろう。それがどんなに不幸な事かはその先になってみないと気付かないし、その時にはもう遅いのだ。と。
例え頂上に立ったとしてもそのふもとにも常に注意しておくように。と続きました。
なるほど素晴らしいですね。しかし、少しだけ英介は周囲に対する警戒心が強すぎる気もします。まぁ生い立ちを思えばそれも仕方の無い事ですが。
そして、そこからはさらに真澄に対する英才教育が加速していきます。あらゆる分野の専門家に様々な知識を指導してもらい、どんどん成長していきます。
その一方で、家庭の事はまったく考えようとしない義父に怒りも覚え始めます。母が高熱を出し寝込んでいてもそれに感心を示さない。なんのパーティーに出掛けても『元使用人風情が生意気な』という態度で周りが接してくるので次第に外にも出なくなる母。
自分の妻が高熱を出して寝込んでいても、自室にある紅天女の肖像画に話しかけている始末。
どうしようもないオタクです。
これがなんの権力も持たない独身のオタクであったなら良かったでしょう。どうあれその人の世界です。他人がどうこう言うべきではないし、そこで完結する世界にはある種の美しさすらあるかもしれません。
しかし。英介には家族があるのです。紅天女に。月影千草にハァハァしている場合ではないはずです。
こうして、歪んだ速水家がどんどん作られていくのでした。
満天の星空の下で
そんな速水家に嫌気がさしたある日。親戚と喧嘩し、相手を殴った勢いで階段から転落させ下手したら死ぬのではないかという事件を発生させた真澄は家から飛び出してしまいます。
とにかくどこでもいいから逃げてしまいたい。あの家から遠く離れたい。
そう思い真澄が逃げた先に、プラネタリウムがあったのです。
館長さんらしき人物は、お金が無いという真澄を快く中に入れてくれました。そして、そこで見た初めてのプラネタリウム。
そこに見えた宇宙の広さ。星空の美しさ。その世界に魅了される真澄。
その日。真澄はずっと上映を見続け、気付けば最終の時間。誰もいなくなったその館内で涙を流し座り続ける。
そんな少年に、優しく声をかけ家に送ってあげる館長。こうして、プラネタリウムは真澄にとって唯一の心の安らぎの場となるのでした。
それにしても、なんと皮肉なものかと思います。
英介も真澄も、子供の頃から『妾の子』『使用人の子』と差別され、それが嫌でしょうがなかった。
そんな2人の気持ちの向かう先が『紅天女』と『星空』であり、どちらも実在はしてもそれは手の届かないもので。架空の、誰かの創作物で。
生活そのものは恵まれたものだったかもしれないけど、その心に空いた大きな穴は、もう現実にある何物でも埋める事が出来ない状態になってしまった。悲しいですね。
血は繋がっていないのに。こうして不器用な親子は同じような運命を辿っていく事になるのです。
厄介オタクの湿度高めな粘着自分語り
自分の紅天女との出会い、そしてその当時から続く執着の気持ち。それを軽くですが息子の真澄に語る英介。
紅天女と初めて出会った当時、すでに運送会社を経営していた英介はそれを口実に紅天女の上演があると聞けば全国どこへでも駆け付けたそうで。
いわゆる『全通』というやつですね。
普通のオタクなら、ややパワーのあるタイプでそれこそファンの間ではちょっと有名なTO(トップオタ)として君臨して終わりかもしれませんが、この厄介が真に厄介なのは、力があった事です。
なんとか紅天女と結びついていたいと考えていたこの厄介オタクは大都芸能を設立。推しと同じ世界にいたいという理由で同じ業界の会社を作ったのです。
恐怖ですよね。
紅天女のグッズ爆買いやライブ全通くらいなら、まぁ個人の範囲内だし周りのオタ友も狂ってる(褒め言葉)として扱ってくれたかもしれませんが、それが会社まで作ったとなれば話は別です。
ドン引きでしょう。
普通なら人に語る事をためらうような黒歴史中の黒歴史を、いかにも真面目な事のように語って聞かせるこの男は一体何を考えているのか。
その世界(芸能)では新参者の英介はあらゆる妨害や中傷を受けました。しかしこの世界でなんとか認められたい英介は必死になり、またかなり無茶な事もしました。
そしてついに。『紅天女さえ手に入れる事が出来れば一流の仲間入りができる』と思い込むようになったのです。
最初は紅天女が好きだからの推し活だったはずなのに、いつの間にかそれが自分を社会に認めさせるための手段とすり替わったのです。当然、紅天女及びその中の人の月影千草への狂った愛もそのままで。
推しを使って、推しの名目で自身の承認欲求を満たそうとしている。これはなかなか極まった厄介です。
求めても得られぬ舞台の上の幻に義父は恋していたのだ
とは真澄の意見ですがなんとまぁ痛烈な事でしょうか。
この話の流れは、これが連載当時の頃よりも現代に生きる人々の方が英介の気持ちに共感出来るかもしれません。粘着系厄介オタクの先駆者である速水英介。まぁ当時もアイドルの厄介オタクとかいっぱいいたとは思いますけどね。
そして、この狂った粘着系厄介オタクに人生振り回されている真澄はたまったもんじゃないわけですが。
大事件がおきる
そして、ついに親子の絆に深いキズが入る決定的な事件が起きます。
それは真澄が10歳になったある日。いつもと違う迎えの車が来たなとうっすら疑問には思いましたが、それに乗った真澄はなんと誘拐されてしまいます。
誘拐の理由については色々ガチャガチャ書いてありますが、要は英介が総理のために選挙の裏金を工面したらしく、このチンピラの目当てはそのお金。
表に出せない黒い金なので、何があっても英介側もそれを公には出来ないという、なかなか上手い事考えたなと感心する内容です。
これはなかなか厳しいのでは?詰んだのでは?というか、そもそも息子が誘拐されてるのだから迷う余地など……。
しかし。英介の下した判断は非情なものでした。
わしには子供はおらん
子供などいない。そういって要求を突っぱねる英介。ただし。『わしの血を引く子供などこの世にはおらんのだ』と言った英介の気持ちに少し考える余地があるように思います。
これが本心なのか。それとも駆け引きなのか語られる事はありません。
しかし。『わしの血を引かない子供』ならいるのではないでしょうか?
ここにどういう想いがあるのかはわかりません。でも、そこに愛はあったと信じたいところではあります。
それはともかく。
実際に電話をかわって真澄が助けを求めても義父の態度は変わりませんでした。最終的にはガチャ切りです。
もし、今ここでこの誘拐犯達に自分が義父に見捨てられた事を悟られたらおそらく証拠隠滅のために自分は殺される。そう気づいた真澄は『父はお金を用意すると言ってくれた』とウソをつきます。
とりあえず一旦は引き伸ばしましたが、そのウソがバレるのも時間の問題。取引の場所に英介は現れないのですから、その後殺されるだけです。
なんとかして逃げなければ。
そこで、トイレに行きたいと叫び見張りと共に外へ出た真澄は、油断した見張りが手に持ったナイフを体当たりで強奪。そのナイフで見張りの腹を刺しそのまま冷たい海に逃亡しました。
すげぇな。サバイバル意識高い。
海に逃げた真澄の作戦は成功。偶然海を巡回していた巡視艇に助けられ一命ととりとめたのでした。
その後、風の噂で英介がそのチンピラどもを半殺しにしたらしいですが、それは真澄のためではなく、あくまで選挙の裏金の事実を隠すため。
結果的に真澄は生き残りました。しかし、命を賭けた場面で英介に捨てられた。その心の傷は深く、そこからもう誰も信じない愛さないと心に決めたのです。
こうして、氷のような心を持つ『速水真澄』が育ち始めたのです。
それから
ここまでで34巻の半分くらいです。相変わらず濃いな。最近の漫画だと真澄過去編だけで5冊はいくよ。
さて。こんなに不幸があったわけですが、これで終わりではありません。
さらにこの後、真澄の運命を決定するとんでもない事件が起きる事になります。
速水邸で起きた火災。燃えゆく紅天女たんのグッズ達。
その時厄介オタクやその周りの人々のとった行動とは!?果たして速水家の運命は!?
今までもこれからも、1冊の内容全ての感想を書く事はしないでしょう。それをしてしまうと、このブログを読むだけで全てが完結してしまう事になりこの作品に対するリスペクトを欠く事になってしまうからです。
このブログを読んで、なお作品を読みたくなるように。そう心がけて書いているつもりではあります。
しかし!しかしです!この34巻は後半部分もかなり激動なのですよ!もし、もしこのブログしか読んでなくて作品を読んだ事ないよって人はぜひ買って読んでみてほしいのです。
この後は、義父から紅天女を奪うために復讐の鬼となった真澄のそれからの人生や、推しに狂った義父に人生をめちゃくちゃにされたはずの真澄が結局自分も推しに狂っていってしまうという内面の話。
亜弓の紅天女に対する想い。
それからついに『速水真澄=紫のバラのひと』という事に気付きそれを確かめようとするマヤ。
さらに紅天女の試演のためのキャスト発表など盛りだくさんとなっております。
マヤの母の墓参りに行きその罪を懺悔する真澄
すれ違い、交錯するそれぞれの想い。紅天女を中心に、物語が動いていきます。
35巻へ続く
画像:「ガラスの仮面」コミックス34巻より引用
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